7、午後2時半過ぎごろ
わたしを起こしたその音は、玄関先からだった。
たてつけの悪いドアをむりやり開けようとするその音。
「どなたですか?」・・・わたしは感じの悪い低い声を出した。
「わたしよ。」・・・わたし? ギョっとした。わたしのおばさんだ。
おばあちゃんの娘であるわたしのおばさんは、家に入ってくるなり、きょうは孫娘レイカちゃんの幼稚園で敬老の日のつどいがあり、朝から、船橋から渋谷までクルマを運転し、大渋滞だったこと、遅刻して着いたら駐車場が満車だったこと、おじさんがその足で名古屋に出張にいったこと、レイカちゃんたちとフランス料理のランチを食べたこと、などを30分かけて事細かに報告し、通販で靴を買ったのだが、おばあちゃんの足にあうかどうか確かめにきたのだ、ということを最後に報告した。
腰の痛いおばあちゃんは、もう外出することなどないのだ。それでもおばさんは、「長生きの秘訣はオシャレをすることよ。どんなに年をとっても、オンナはオシャレをしなきゃダメ。履かなくたって、オンナは靴の60足ぐらいそろえておかなきゃダメなのよ。」と力説した。
その洒落た靴は、おばあちゃんにはきつすぎた。
靴は返品することにした。