8.午後4時
 おばさんは、しゃべるのをやめたと思ったら、玄関の靴箱のそうじをやり始めた。
あとからあとから次々出てくるその靴たちは、カビがはえていたり、ネズミに齧られていたり、使い物にならないものばかりだった。
 60足はないにしろ、30足ぐらいはあっただろうか。
 おばあちゃんの、鼻緒が切れた小さなゲタがあった。
 わたしば履いてみると、かかとがまるまるはみ出した。

 おばさんは、その靴たちを、ぜんぶ処分しましょ、と言った。

 開け放した玄関から、最後の蚊が入ってくる。わたしとおばさんは、体中あちこち蚊に刺された。

 おばあちゃんは、平気のへいだ。


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